不透明な時代を見抜く「統計思考力」 - 読了

これは素晴らしかった．
統計的思考能力というのは誰にでも応用の効くスキルで，本書はそんな統計思考の『楽しさ』を伝えてくれる，そんな本．

目次は見ると，ちょっと難しそうと感じるかもしれないのでリンクで．
でも実際はものすごく平易な記述なので，全く問題ない!

本書では様々な事例が挙げられているが，多くは社会人一般に関心が持たれているようなものとなっています．『若者の読書離れはほんとうか?』，『小泉改革は格差を拡大したのか?』をはじめ，出生率や失業率など，メディアで取り上げられるテーマについてデータを基に分析しています．

統計思考の必要性は社会人だけでなく，学生にも必要だ．特に大学での卒論，大学院での修論など評価実験を行った結果を正しく分析する必要があるためだ．しかし，実際には社会学系の学科は別として，ちゃんと統計解析のレクチャーがなされているかは疑問である．まぁ少なくとも俺はそういった指導は受けなかったし，統計を教える講義もなかった．つまり，文系のみならず理系でもデータ解析は必要なのにその正しい知識は何ら伝えられていないのが現状ではないか．

俺がいた研究室では，実験データが出てきてそれをグラフ化した際など，何か分からないがバラつきが見られたり，不確定要素が見受けられた場合はだいたい，『これは正規分布に従うはずだ』の一言．で実際正規分布以外の分布(ポアソン分布とか)でも正規分布と言うんじゃないかというぐらい事あるごとに正規分布．確かに，正規分布と言っておけば大概間違うことはないかもしれないが，そんな場にいて，俺はちょっと嫌気がさしたのも事実．

また，誰にでも必要なスキルと言ったが，だからと言って統計学の教科書を用意し，「いつか必要になるからやっておこう」というのじゃあ，結構辛いと思う．何せ，統計は基礎学問というよりは応用の学問であり，様々な分布はやはり，実際のデータを記述する際の必要性から生まれたものだと思うからだ．つまり，統計学の教科書を読むよりは統計解析ソフトで実データを解析したほうがよほど身につく気がする．もちろん，統計解析ソフトを用いると，ブラックボックス化された関数を使うことになるので，そんなの嫌だという時，教科書で数式を追えば良いんじゃないだろうか．

この本の素晴らしいところは，まず，データを手に入れるところから解説しているところだ．
数々のデータが入手可能な現代において，そのデータがどれほど活用されているだろうか．
『っても，どこから当たればいいかわっかんねー』
という人のために本書末尾に『統計・文献ガイド』がついている．これは大いに参考になりそうだ．
また，~~ジェバンニ~~小飼弾さんが一晩でやってくれました，こちら：

404 Blog Not Found:「統計思考力」で読む文献
or
Discover - 参考文献・統計資料

を利用すれば，データ・文献へのアクセスはとても便利になる．
これを活用すれば日々のレポート課題は困らない! やったねっ(ぇ

まずはデータに当たろう，そういう姿勢が大事ということ．
そして，『データを見る』から『データを読む』，そして『データを利用する』と段階的に進んでゆく．
俺はこの本で一番読んでタメになったと思うのはこの一番最初の『データを見る』パート．『データを読む』は確かに，ちゃんとやろうと思うと統計の教科書を読む必要があるかもしれない．そして『データを利用する』では，いや全体を通して，ある事柄を調べる際には多面的にデータを調べる必要性があることを豊富な例を持って示してくれる．

本書を読んでいて，ちょっと気になったのは，数式を極力排除して説明しているのに何故か，ブラック・ショールズ評価式という美しい――いやいや，まずは難解と思うよ，普通の人は――が出てくる．

こんな感じ：
$C(S,T,K)=S\Phi (x)-Kr^{-T}\Phi (x-\sigma \sqrt{T})$
$x=\frac{log(Sr^{T}/K)}{\sigma \sqrt{T}} + \frac{\sigma \sqrt{T}}{2}$
$\Phi (x) = \int ^x _{-\infty} \frac{e^{-z^2/2}}{\sqrt{2\pi}}dz$